受け継いできたものを
守るために
木曽ヒノキの産地であり、漆の技も伝わる奈良井宿。小島貴幸さんはここで生まれ育ち、「曲物」と「漆」という双方の技を受け継いできました。「Lint Remover Magewappa」のボディ制作を担う小島さんにお話を聞きました。
「Lint Remover Magewappa」の魅力はどんなところですか?
「サステナブル」が詰まっている
軽さや丈夫さももちろんですが、やはり経年変化を楽しんでほしいですね。この製品に使われている「摺り漆」という技法の醍醐味は、木目が楽しめることと、木のぬくもりが感じられる肌ざわりなんですが、時を経るほど使うほどに表情が変わります。深い色が明るい飴色に変わっていくんです。長く愛用してほしいですね。
漆は30年かけてゆるやかに品質のピークを迎え、その後100年以上かけてほんの少しずつ劣化していくといわれています。マクセルイズミさんが目指している「サステナブルなものづくり」とも相性がいいし、衣類の寿命を伸ばす毛玉取り器がその漆をまとうというのもしっくりくる。
ちなみに、曲物に使われる木材は、主に建築材料の製材に合わせて切り出され、時間をかけて育った天然木を無駄にしません。これもマクセルイズミさんが目指す「サステナブル」というテーマに合致しています。それも、今回のプロジェクトに参加した理由のひとつです。
プロジェクトスタート時の印象は?
技術も要るし、素材も厳選が必要。「無理だ」と思った
実は、仕様を聞いた時点で「こりゃ無理だ」と思いました。普段作っているロットと違いすぎるし、径の小さいものを作るのはとても技術が要るんです。材料も上質なものを厳選しなければいけない。
そもそも工業製品と手仕事の工芸品は、精度も含めて求められるものが違いますからね。最初のうちは、いつどうやって断ろうかと悩んでいました(笑)。
でも、渋々つくってみた試作品が思いのほかよい出来で、かっこいいって思ったんです。ぬくもりを求められる工芸品と違いを出そうと、ソリッドでシャープなフォルムを意識しているんですけど、そういう普段との違いもだんだん楽しくなってきちゃって。
私ひとりで営む工房ですから、コストを意識しながら最高の材を集めるのも、マクセルイズミさんの求める質と量をクリアするのも大変ですが、乗り掛かった船に完全に乗ったからには最高のものを目指して取り組んでいます。
今後の展望を教えてください
銘木の産地でできることを
ここ木曽地方は、京や大阪、江戸などへ質のよい木を供給する産地として発展してきました。その間に蓄積された木に関するたくさんの知識と技術は、この土地だからこそ生まれたものです。そして、それらを凝縮してできたもののひとつが曲物だと思っています。
しかし、近年は奈良井の曲物づくりも後継者不足に直面しています。その流れを止めるためには、まずはたくさんの人に曲物のよさを知ってもらわないといけない。
天然木は植林した木が成長して種を落とし、それが成長しないと手にできません。銘木を守り育てるには時間がかかります。それと同じように、伝統工芸もまた守り育てるには時間が必要です。一朝一夕にはいかないとは思っていますが、それでもやはり受け継いできたものは守りたい。
このプロジェクトは後継者の育成や技術や伝統を守るという意味でも大きな一歩だと思っています。他の工業製品も手掛けてみたいですね。